シェルカメオのブローチです。
19世紀半ば〜後期にかけての作と推測されます。

題材は「ヴィーナスの誕生」。
海の泡より生まれた愛と美の女神アフロディーテ
（ヴィーナス）が、西風に吹かれ波間を漂いつつ
キプロス島へと辿り着く、ギリシャ神話でもよく
知られた一節です。
かの有名なボッティチェリの絵画でも同じシーンが
描かれています。

帆立貝に乗り、上半身を少しだけ捻り振り返る
アフロディーテの立ち姿。
その視線は貝を引き前を進む天使へ、もしくはこの
全景を眺める私たちへと向けられているのでしょうか。

二人の天使は表情こそ描かれてはいないものの、
この美しい女神を先導できることが嬉しく、また
誇らしく感じているかのような楽し気な雰囲気が
全身からあふれ出しています。

神話では西風の神ゼフィロスが女神を運んだとされて
いますが、ここにその姿は見当たりません。
ボッティチェリの作品になぞらえたものであるとすれば、
二人の天使が西風の神と、その妻の花の女神なのかも
しれませんし、そうではなかったとしても、女神の
薄衣が軽やかになびく様からは、風の神の存在を
確かに感じ取ることができるのです。

背景となる淡いブラウンの部分は光にかざすと向こう側が
透けて見えるほどに薄く、所々にキャメルが混ざる
アイボリーカラーの浮彫り部分も大変繊細な色合い。
身体の滑らかな曲線と立体感、人物の位置関係を示す奥行、
波や貝といった彫りの表現も見事です。

カメオを囲むフレームは波を意識した形状と彫り、
粒々とした金は女神を生み、進む波間にも舞い踊って
いたであろう海の泡を表現しているのでしょう。
テーマに相応しい上品な華やかさです。

フレームの一部補強、あるいは補修も、オリジナルの
印象を損なうことなく施されています。
またシェルの僅かなヘアラインは強度に影響を与えない
程度と考えます。

年代　　1800年代中期〜後期頃
国　　　ヨーロッパ
素材　　シェル ゴールド
サイズ　 約3.9cm×4.5cm

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